初詣の待ち合わせ場所になっているのは近所では有名な神社だ。三人で住むマンションから近いためその後の宴会場所が三人の部屋になっている。買うよりは安いだろうということでバッツがおせちを作ったのもそのためである。
「おはよう、スコール」
「フリオニール」
 手にしていた紙袋の中身は餅とジュースだ。さらに渡されたコンビニのビニール袋には大量のスナック菓子まで入っている。
「用意とか全部投げたからさ、せめてこれくらいはな。他にも手伝うこと、あるか?」
「今、バッツが色々してる……手伝ってやってくれ」
「わかった」
 頷いてリビングに向かったフリオニールを見送り、受け取った袋の中身を冷蔵庫に入れるためキッチンに向かった。カウンターの向こうに見えるリビングでは、二人が賑やかにテーブルのセッティングをしている。正直来てもらって助かった。”そこまで”気は回っていないだろうが、手伝いに来てくれることは嬉しい。
 ため息を吐くといまだ重い腰をかばうようにして伸びをする。もらった餅の袋を開けると網に載せる。バッツが朝仕込んだ雑煮に入れて少し遅い朝食にするためだ。フリオニールの分も作り、お茶を入れてテーブルへ向かう。
 リビングには全面にラグが敷かれ、座卓が二つ並べられている。隣の部屋も襖を外されて、普段使っているテーブルとソファが置かれていた。
「お茶」
「サンキュ、スコール」
「フリオニールも……朝食は?」
「まだ、だけど」
 肩で息をつく二人に座るよう促して湯のみを置く。確かに結構な重労働かもしれない。それにこれから、料理ができる貴重な二人は更なる地獄を見ることが決定しているのだ。
「大変だな」
「スコールもな」
「一番大変なのはフリオニールだろう。バッツは酒で潰れられるが」
「おう、おれは逃げるから!」
 朗らかにのたまったバッツをフリオニールが唖然とした顔で見る。
「本気、か?」
「……フリオニール君は素直で真面目ですね」
「人で遊ぶな」
 むくれたフリオニールをからかうバッツはタイマーの音に腰を上げた。
「焼けた?」
「多分」
「じゃあ持ってくるな」
 フリオニールと二人、ゆっくりとお茶をすする。新年、というよりこの時間が終わればゆっくり出来る時間はない。スコールもどちらかと言えば後片付けに回る方だろう。戦場のような去年を思い出して軽く眉根が寄った。
「一応、大人しくするようには言ったんだがな」
「素直に聞くなら問題なんかない」
「確かに」
 脳裏にあるのはもちろんティーダだ。他の面々もとはいえ、お祭り騒ぎといえば彼の出番だ。バッツやジタンとふざけあう姿はもはや定番である。同い年で同じ学校に通い更に言えば同じクラスだ。どういう相手なのかは嫌というほどわかっている。
 今日も絶対何かにつけて絡まれるのは覚悟している。
「まあ、スコールに会えるってなんか意気込んでたよ」
「…………」
「そんな顔するなって」
 ふと、のぞき込んだフリオニールの目が瞬いた。
「どうした?」
「あ……いや、その」
 顔を背けた彼の首筋が赤い。突然の行動が理解できず、首をかしげる。
「き、気付いてないの、か」
「だから、何が」
 深く息を吸ったフリオニールは付いていないテレビの画面を指さした。まだブラウン管のテレビ画面には部屋の様子がぼんやりと映っている。ついで、自身のうなじの上の方、髪の生え際ぎりぎりを指す。それだけでなんとなく意味が分かり、思わずそこを手で押さえた。
「ま、まあ、普通にしてれば、見えないもんな」
「そう……だな……」
「うん、よっぽどよく見ないと気付かないから大丈夫」
 お互いの顔をまともに見れずうつむいたままだ。
 まだお互い高校生である。バッツと付き合っていることもフリオニールは知っているが、それをまざまざと見せつけられるのはやはりダメージが大きいだろう。スコールもあまり恋愛は得手ではないためよくわかる。
「……お前ら何してるの?」
「お前が悪い」
「そうだな、確かにバッツが悪いな」
 雑煮を乗せた盆を持ったバッツは訳が分からないといった顔つきで二人を交互に見た。その姿に軽い怒りが湧いてきたのも仕方が無いことだろう。
「フリオニール、さっさと食べて出よう」
「あ、ああ」
「え、ちょ、スコールさん?なんか怒ってる?」
「知らん」
「仕方ない、の範疇だろうなあこれ」
「フリオニールなんか知ってるの?!教えて下さいマジ一生のお願い」
 その後、土下座の勢いでフリオニールに迫るバッツの姿をうっすらと笑いながら見ているスコールがいた。


フリオごめんね!
2010/01/03 : アップ