貴方の場所じゃない、とアルティミシアは言った。その言葉に目を剥く。伸べられた手に握られていたのは一振りの剣。ハインの呪縛を解いた魔女はうっそりとした笑みを浮かべた。

 異説の世界だと秩序の女神は瞼を閉じて説明した。ブリーフィングと同じ感覚で彼女の説明を聞いていた意識はそこで軽いパラダイムシフトを感じる。そこでは敵は敵であるけれども敵ではなく、自分もまた同じだと。しかしどうだろう。実際に目の前に居る魔女は「彼女」だ。その存在意義も至上命令も何もかも変わってしまっているが、瞳の奥に蟠る光は消えていない。
 リボルバーの、美しい銀の剣。かのじょのあい。長い指に付けられた黒ずんだ指輪。

 愛は、何なのだろう。「彼女」の愛は遠い遠い時間を重ね長い長い幸せの搾取の元で変質した。遥かな未来、そこでようやく伝説のSeeDは真なる目的を果たし、魔女の力の継承は終わるのだ。
 生まれた時から定められた愛と死と希望と絶望と終焉と始まり。母なる海から分かたれた淀みに端を発する二つの楔。クロノスに打ち込まれた二つは、長い未来から短い過去を繋ぎそこにハインを鎖して人を、そしてハインを解放する。
 異説ならば、なぜアルティミシアはその手に時間を留めるのだろう。なぜ忘れたままなのだろう。そして彼女は、一体何を継承させるつもりなのだろう。時を操りつつも、時を知らない魔女はハインの下にある。その手から時を(アルティミシアの時間を)解放しなければ救いは永久をさまようだけだ。

 これが「彼女」の本質だというのだろうか。いや、と自問自答する。
 確かにこれは異説の世界だ。この世界ならアルティミシアを救うことが出来るかもしれない。限りなく自分の場所ではなく、故に何のしがらみも持ってはいない。イミテーションのガンブレードが静かに空気に溶けていく。切っ先を魔女の心臓に向け、スコールは戦いを選ぶ。彼女との戦いは何者かに仕組まれていた。現在があるからこそ未来が決まり、現在があるからこそ過去が決まり、現在があるからこそ人は生きる。助けを求めて「彼女」が幸せへと戻ってきたことを誰も責められはしない。
 身を切るような痛みを堪えてでも、その命に終焉を。最期まで護ることの出来なかった永らえる術のないただ人の騎士の不甲斐なさを捨てるように。
「解放しろ」

――あんた自身を、全てから。


やっぱり力のハインはシュミ族なのかなー騎士なのかなー。個人的に8はハインによるハインの解放運動なんだろーなと捉えておりますですという話。
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2009/03/03 : アップ