迷いなく歩く脚をじっと見つめた。本題を置いて美しいバランスの体躯をした少年に、何を食べてこう育ったのか聞き出したい気持ちに駆られる。
 一歳違いだとは思えないほど発育が違う。クリスタルが示した方向へとひたすら進むスコールはまさに戦士と言ってもいいだろう。ジタンは自分の体に目を落とした。まだまだ成長期だ、さして問題はない。それにジタンは盗賊だ。軽い体は都合がいいこともある。
 とはいえ、あの視点から世界を眺めてみたいものだ。
「ジタン?」
「あ、悪ぃ……」
 静かで色味の柔らかい青がこちらを見つめていた。女の子が好きそうな顔をしている。整っていても冷たさよりも甘さの際立つ顔立ち。ただ眉間に走る傷跡が強い。
 可愛いと評されることの多いジタンとはまた大違いだ。傷跡すらも美点と為すような顔立ちに勝てるだろうか。
「スコールって、モテるだろ?」
「……なんだ、突然」
「いや男のオレから見ても綺麗だからさ」
 僅かに首を傾けたスコールは考えているのか眉を寄せる。しばらく遠くを見た後に、ゆっくり首を振った。
「あまり、話しかけられたことはない」
「だろうなー、あれだ高嶺の花ってやつ」
 気位が高いと簡単に知れる挙動にこの顔だ。話しかけることにも勇気が要る女性が多いだろうことは想像に難くない。話しかけてみれば意外といけるのだろうが、そこまで行くことが大事である。
 少しだけ早足になって隣に立ってみる。視線はそのままジタンを追って横に来た。なんだかそれが面白くて笑ってしまう。
「オレ、スコールと友達になれて良かったわ」
「友達か」
「そうそう。バッツと、オレと、スコール。友達っぽいだろ?」
 仲間であることは当然だが、もっと違う部分で心が近しいと思う。だから言えることもあるし、止められることもあるのかもしれない。
「……そうだな」
 微かに笑ったスコールに安堵して、ジタンは前に回った。スコールはすぐに気まずそうに顔を背ける。解っていて隠していたことに呆れながら、ジタンは足を止めた。
「それじゃあ、まずは止血から始めようか」
「しかし」
「焦んなくても、バッツなら大丈夫さ」
「だが」
「解ってるんだろ、傭兵さん」
 バッツはスコールが思うよりよっぽど強い。「なんとかしてしまう」というアバウトな信頼を置けるかどうかならコスモス一だろう。理屈が心を上回りがちなスコールは不安かもしれないが、ジタンは大丈夫だと信頼している。
 渋々と野営の準備を始めたスコールに、ジタンは声を殺して笑った。

「だから、ジタンは大丈夫だ」
 バッツの切り傷を治療しながらスコールは静かに言った。ちらりと見上げてきた青に息が詰まる。失態で仲間を一人危険な目にあわせている。柄にもなく焦っているのは解っているが、彼は落ち着きすぎではないだろうか。表情に出ていたのか、スコールが苦笑した。
「俺はジタンが無事だと信じている。ジタンなら大丈夫だ」
「……おれが、罠にかからなければ」
「過ぎたことは言っても仕方がない。少し休んだら、行くぞ」
 言葉を飲み込む。スコールの判断は的確だ。少し失血しすぎたのだろうか、貧血を起こしているのを自分でも解っていた。
 目を手で覆うと座り込む。岩陰で陽射しはない。スコールは辺りを見て回ってくれているのだろう、近くに気配はない。大きく息を吐くと、バッツは地面を叩いた。どうしようもなく、いらだっている。感情を共有してくれないことに、そしてそんなことでいらだっている自分にいらだっている。
 バッツとてジタンのことは信頼している。これがバッツの引き起こした事態でなければきっといつもどおりに振舞えていただろう。スコールへかける負担も少なくて済んだに違いない。
「落ち着け、おれ」
 先ほどの言葉通り、起こってしまった事は戻せない。だからと言って後悔がなくなるわけではなかった。
「落ち着け、おれ……っ」
 目を覆う手に皮手袋の感触がした。自分の中から空気が抜けていくような感覚がして、バッツは目を開く。引き寄せた体は抵抗しない。抱き締めると、暖かな人の体温だった。
 見た目よりも細い体がみじろぎもしないでバッツの腕の中にいる。不安と焦りが引き潮のように消えていく。不器用で優しい少年がバッツの中からマイナスの感情を消していく。
「大丈夫だ」
「……だよ、な」
 言い慣れないのか、気遣う言葉は少しだけ固い。落ちていく、と思う間もなく音がした。
 恋に落ちていく音がした。


バッツさん焦ってただろうなーという。ジタンは男前。マジで男前。
タイトルは大好きな曲からお借りしました。

2009/04/20 : アップ