ふわり、と場の空気が変わった。緊張感に包まれた戦場から一気に緊張感そのものが消えていく。楽しげで能天気な声とチョコボの鳴き声が場を支配し、目の前にいたルブルムドラゴンはチョコボに蹴られてどこかへ飛んでいってしまった。
「やっほー!元気?」
 チョコボに騎乗していた青年はにこにこ笑いながらスコールたちの前にやって来る。すでにガーディアンフォース特有の結界は消滅し空間は元に戻っている。そんな中、人間と変わらない実体を保ち周囲にも影響を与えない彼は稀有なガーディアンフォースといえるだろう。
 セルフィやリノアやゼルなどは臆せずに話しかけているが、それ以外の慎重組は彼にやや引いた態度で接している。そもそも、このガーディアンフォースは何かがおかしい。
 ジャンクション不可能なガーディアンフォース達は基本、戦闘が始まった時に出てくるのがセオリーだ。だが彼は戦闘中でも容赦なく乱入してくる。誰かから逃げているのか、いつも急いでいるのも特徴といえるだろう。
 ガーディアンフォースがなぜ逃げるのか解らないが考えても仕方がない。彼らは異次元の存在とでも言うべきものだ。
 そう、たとえ幾ら人間のようであろうとも、決して相容れない存在だ。
「元気元気だよ!」
「そりゃ良かった。セフィはいつも元気だよなー」
「そんなことないって。わたしだって色々あるんだー」
「そう、こないだもセルフィってばさ」
 緊張感のない会話に思わず額に手を置いた。キスティスが首を振って苦笑いを零し、アーヴァインはどこか苛々した様子で帽子を指で弾く。ゼルはチョコボと仲良くボディランゲージ中だ。
 相容れない存在だ、と自分にもう一度言い聞かせる。あの眩しい笑顔も物怖じせず自分に向かう態度も、全て人ではない者の持つ毒に似た何かなのだ。くらくらとする頭を抑えながらスコールはガーディアンフォースを盗み見る。そっとケアルラを掛けてくれたキスティスに感謝しながら、朗らかな声に耳を傾けた。
 優しい声だと思う。耳に柔らかく馴染みやすい。冷や汗の出る体を宥めながら近くの木に背を預けた。ケアルラの効果が出るまではまだ少し間があるだろう。こんな時に来るとは、本当に間が悪い男である。
「それで、スコールは?」
 寒気がする。あの声と笑顔が少し遠くなった気がする。そんなことはない、彼は近くに居る。
 ずるずると背中がずり落ちていくのが解った。足に力が入らない。久々の感覚ゆえに気持ちが悪い。対処も出来ずにスコールは瞼を閉じる。
 ルブルムドラゴンの攻撃を受けた腹部に熱と痛みと痒みを感じた。ケアルラの効果は確実に出ている。だが少し遅かったのかもしれない。発熱と発汗。炎症を起こしてしまったようだ。燃えるように熱いのに凍えるほど寒い。そんな中、彼の声が聞こえてきた。
 慌てた様子でスコールに駆け寄ったのかキスティスにたしなめられている。恐る恐る、と言った様子で触れた手はひんやりと冷たく、体が楽になっていくのを感じた。癒しの力だ。真っ直ぐで全てを受け入れ笑う彼に相応しい優しい力。ダメだ、と理性は抗ったが心の柔らかな部分が僅かな隙間から洩れ出てしまう。頬が緩むのを止められない。
「バ……ツ」
 瞬間、抱き締められたのを感じて、スコールは更に笑みを深くした。

 そんな二人を真横で見ていたキスティスは深い溜息を吐いた。だが、その顔は笑顔に近い。
「全く、素直じゃないんだから」
「そこがはんちょの魅力じゃない?」
「素直じゃないところが可愛いよね、スコールって」
 そうね、と軽く返すとバカップルを背にする。
 瀕死の彼をあのガーディアンフォースは離さないだろう。大丈夫だという確信が持てるまでつきっきりの看病をするに違いない。彼が別の世界では人間だったと、そしてサイファーに挑みかかったあのギルガメッシュから逃げていると知らないのは実はスコールだけである。
 ついでにスコールがピンチのときにだけ来るのを知らないのも、本人だけ。
「ゼル、ここで少し休憩にするわよ!他人のチョコボに乗るなって、何回言ったら解るの!」
 いつまで休憩が続くかしら、と肩をすくめるキスティスはすでに色々諦めムードだ。
「ま、スコールが幸せそうだからいいかな」
「うんうん、幸せであれば全てよし!」
 隣に立ったリノアと顔を見合わせて笑うと、テントを張り始めたアーヴァインとゼルの元へ駆け出した。


絵茶で出たネタアナザー。乱入型バッツさん。アホの子っぽくしようとして玉砕しました。バッツとセルフィは仲良しなのでアーヴィは妬いてます。っていうかゼルどうしよう。
スペシャルサンクス >千葉さん&マチコさん!

2009/04/07 : アップ