軽さ、に驚いた。

「どうした、スコール?」
 旅の途中に立ち寄った村。ヤクトの中を通り抜けた旅人に、一番最初に歓迎の言葉を授ける村はスコールたちに好意的だった。男手がないと嘆く女村長に手伝いを申し出たのはジタン。どちらにしろ行き先を定めない旅なのだから、とそれに同意したのはバッツ。最近、二人から仕込まれ始めたとはいえスコール一人では飛空艇をどうにかすることなど勿論出来ない。溜息で肯定すると、三人は村の外れにテントを張った。
 とはいえ、スコールに出来ることなどたかが知れている。幼い頃から戦うことだけを教え込まれていたために、家事や大工仕事は全く出来ない。剣の手加減は知っていても金鎚の手加減は知らないのだ。
 手持ち無沙汰に村内をうろついていた所、村長が手伝いを頼みに来たのだ。
「スコール?」
「初めてだったのかい」
 優しく語り掛ける言葉に呆然と頷く。
 自分も、このようにして。
 産気づいた女性がいる。丁度産婆が出てしまっており、手が足りない。一番慎重そうだから手伝ってはくれないか。
 役立たずを自認していたスコールが頷かないはずはない。多少ならば医療関係の知識も持ち合わせている。無表情で、だが浮かれた足取りで向かった先は聖なる戦場だった。何も出来ず、ただ村長の言葉に従って動くだけ。いつの間にか入ってきていたバッツにも気付けなかった。
 そして。
「母親に逢わせてやっておくれ」
 手の中に取り上げた、ひとり。
 言われるままに跪き、荒い息も落ち着いた母親に静々と献ずる。聖なる母と聖なる子。生の祝福に満ちて生まれた子供と、生み出した母親の美しさにスコールは声もなく立ち尽くす。愛の言葉を連ねる聖母に手招かれ、スコールは再び跪いた。
「旅のお方、貴方からも祝福を」
「い、いや」
 正直どうすればいいのか解らない。すると、横に立ったバッツが子供を受け取るとスコールの手に戻した。
「思いついた言葉で、いいんだよ」
「思いついた……」
「そう。俺からは」
 小さな額に人差し指を置くと、優しくあれ、と微笑む。小さな命は一回だけむずがると大人しくなった。
「こんな風に、な」
 恐る恐るその仕草を真似て額に指を近づける。誰もがその姿を見守っている。微笑む村長と母親、そしてバッツ。誰もが一度通る、生への畏れと感動をスコールは味わっている。それはとても素晴らしくて素敵なことだ。
 触れそうになったその時、子供の小さな小さな手がスコールの人差し指を握った。
「ああ」
 溜息のような声が洩れた。それと同時に、眦から雨が降る。ぽたり、と子供の頬に落ちた雫がきらめいた。
「おやおや、素敵な祝福だね」
「雨の名前を持つ方から恵みと感動の雨をいただけるなんて、この子は果報者だわ」
 こんな小さな命でも生きている。この軽くて重い手の中の命もいつかは自分と同じように足で立ち歩き出すのだ。本当に不思議で、どこか愛しい気持ちがスコールを揺らす。
 自分もこうやって祝福されたのだろうか。いや、生まれたときに祝福を受けなかったとしても今祝福を授けてくれる人が居る。それなら、それでいい。落ちる涙をそのままに、柔らかく笑みながらスコールは祝福する。
「幸せで、あれ」


絵茶で出たネタその2。ちょっと長かったんでこっちに収納。
スペシャルサンクス>マチコさん!

2009/03/28 : アップ