彼が惚けていることが多くなったのは、新しいガーディアンフォースを手に入れてからだった。戦うこともなく手に入れたそれは、珍しく人と変わらない姿をしている。人型ではない。
 例えばシヴァやセイレーン、オーディン。彼らは人に近い容をしているが、角が生えていたり衣服などを身につけている様子もない。超然とした人に似せた何か、である。だが、今回手に入れたガーディアンフォースはまるっきり人であった。ジャンクションしている時に話しかけてくることも思考が洩れてくることもない。それがガーディアンフォースたらしめている力なのかもしれないが、それ以外ではただ人だ。時々勝手に実体化して話しかけてくることもある。話せば話すほど人であった。
 そんな不思議なガーディアンフォースを彼は気に入ったのか、決して自分以外にはジャンクションさせなくなってから少し経つ。そして、彼は時々遠い場所を見つめることが多くなった。そして。
 無言で私の前に立つ彼――スコール・レオンハート、バラムガーデンのSeeD部隊の指揮官――にそっと溜息をつく。申し訳なさそうな顔をしているのを見るのは何度目だろうか。
「キスティス。キスティス・トゥリープよ、指揮官」
「すまない、キスティス」
 愛と勇気と友情の大作戦以来、近くなった距離が一気に遠ざかっている。仕方ないと思ってしまうのはガーディアンフォースの使用をやめなかったスコールだからかもしれない。結局のところ、スコールが望んだことを止められないのは彼の周りにいた人間全ての業が為すものだ。
 私も利用された側ではあるが、彼の運命は過酷を極めた。引き取られることもなく、故郷と呼べる場所も持たず孤高に立つ少年。誰よりも濃いはずなのにそれ故に希薄な縁を嘆くかのエスタ大統領も、形のよい眉を顰めて哀しいな、と言っただけだった。
 そう、哀しい。ガーディアンフォースには副作用がありその被害者でもあるのにスコールはそれを使い続ける。自制心も何もかもが人より強固なものであるのに(そして、ガーディアンフォースがなくても彼は十分以上に強いのに)使うのだ。
「ねえ、指揮官。少し頼みごとがあるのだけど」
「なんだ」
「ジャンクションはしないわ。あなたのガーディアンフォースと、ちょっと二人で話をさせてくれないかしら」
 誘惑なんかしないわよ、と言って笑えば、ぎこちないながらもスコールは頷いた。
 それが正しい道なのか私にはわからない。魔女の騎士と伝説のSeeDという二つの重い名と、英雄という世間の視線。リノアすら癒せなかった傷と重圧。ただ、スコールが幸せであればいいという願いが事態の看過を許さなかった。
 ふと、近すぎて触れられなかったと自嘲気味に笑ったリノアの顔が脳裏に浮かんだ。いまや魔女の彼女は、きっとこのことも解ってしまっていたのだろう。

 実体化したガーディアンフォースは綺麗な顔をしている。大きなアーモンド形の目に意志のはっきりとした眉に凛と通った鼻筋。スコールの美しさとは別の、明るい面立ちだ。
「どうしたんだ、キスティス?」
 にこにこと笑う彼は私たちの名前を忘れることはない。エネルギーの塊で、精神生命体などということは忘れてしまうほど生き生きとしている。実際に存在していたとしてもおかしくはないほどの。
 この彼に、そしてスコールに。きっと酷いことを訊くのだろう。望んだのはガーディアンフォースだとしても望みを心から叶えたのはスコールなのだ。
「忘却は、救済かしら?」
「ちょっと遠いかな。独占欲のが近い」
「望んだのはあなた、ね」
「ああ。でも、望んでいたのはスコール」
 瞼を伏せて笑った彼から顔を背けた。
 これ程までに痛々しい愛があるのだろうか。誰からも祝福されず、理解もされず、ただ不可解な嫌悪感を向けられるだけの愛。全てを、苦しみと悲しみの全てをただ背負う。
「でもさ、思わないこともないよ」
「言わなくてもいいわ」
「キスティスは優しいな。だから、訊いてくれたんだろう」
「それは、」
「俺だけを覚えてればいいって、思わないこともない」
「……スコールは」
 訊ねるまでもない。ガーディアンフォースは彼の傍から消えない。望むなら一生傍に居てくれるだろう。魔女の騎士として敵を屠る助けにもなるだろう。
「幸せなのね」
 首を傾げたとも、頷いたとも取れる仕草の後、ガーディアンフォースは跳んだ。大陸と海を渡る風のように。


絵茶で出たネタ。あんま黒バッツじゃないですねあとバッツとスコール絡んでませんね接合してますけど!ジャンクション和訳するととてもえろえろしいです。くっつけっこか(黙れ
リノアはスコールにとって聖域すぎるんだよ……むしろ初プレイ感想のせいでパートナー(not恋愛関係)以外の関係にさせられないのであったり。ラグナは罪な男だぜ……。
スペシャルサンクス >千葉さん&マチコさん!

2009/04/05 : アップ