痙攣する瞼にキスをしてやれば、艶やかな声と共に大きく体が震えた。そして水から揚げられた魚のように体を跳ねさせる。何度目だろうか、数えることすら億劫な熱の中でスコールは喘いでいる。その様子が快くて口角を上げてバッツは笑った。
 ずぶずぶと這入っていくのを体中で感じているのだろう。一度達するとしばらくは達したままの状態になるスコールは非常に敏感だ。涙を流しながら声を上げるその姿を想像できる仲間などいないに違いない。他者との触れ合いを拒み続けた彼に触れることが出来る喜びと、思う様蹂躙することを赦され望まれた幸福。
 軽い絶頂をやり過ごしバッツはスコールの額にかかった前髪を指でそっとどかした。うっすらと紅く色付いた傷跡が彼の心に繋がる道に見える。実際にこれ、に触れると反応が違うのだ。
「誰に付けられた?」
 スコールと自分は全く違う世界からここへ来て出逢った。バッツの知らないスコールが彼の世界にはたくさん存在している。この傷跡も同じだ。むしろ、この傷跡は象徴と言えるかもしれない。バッツが知りえないスコールの欠片はこのように深い部分でも変わらない。美しい顔に一生残る傷跡を与えた相手への氷のように熱い嫉妬。本来ならば知らない全てに対して思う感情をこの一筋へと昇華しているのだ。
 囁く声すら快楽と為すのか、一際大きくスコールが喘ぐ。
「バ……ッアァ!」
「気持ちいい?」
 がくがくと首を縦に振り、バッツの首に回されていた手が落ちそうになる。溺れているかのように手をばたつかせバッツから離れまいとするスコールは限界のようだ。普段の冷静さも余裕も一切消え果てて、年齢相応の欲に動かされている。
 明日もまた旅が続く。このくらいにしておくかと、名残惜しく思いながらバッツはぬるま湯に似た快楽を投げ捨てた。

 横たわったままの相手にそっとブランケットをかけてやる。いまだ快楽の余韻に浸っているスコールは、どこか浮ついた瞳で礼を言った。元々シャープな色気のある顔つきをしているというのに、そんな目は反則だとバッツは生唾を飲み込む。これで計算ではないのだから天然とは恐ろしい。
 とはいえ、幾ら自分も彼も若いからとそう何度も襲っていられない。戦えないほど消耗させてしまったらこの先しばらくは触らせてもらえないだろう。それにジタンに呆れられるのは今更としても、たまたま合流したフリオニール達にまで迷惑はかけられないからだ。無理を言って夜営地から少し離れた場所に二人だけでテントを張らせて貰っているのだし、スコールに無体を強いたと思われたらセシルとクラウドが黙っていまい。暗黒と聖の力にあのバスターソード。考えただけで背筋が寒くなる。
 息を吐くと、服装を簡単に整えてテントの入り口のシートをめくった。
「どこ、に」
「火の様子を見ようと思って。……辛くないなら、一緒に来るか?」
 こくり、と頷くとブランケットを持ってバッツの後ろに続く。少しだけ弱まっていた火に薪をくべると、バッツはお茶の準備を始めた。
「何飲みたい?」
「……なんでもいい」
「じゃあ紅茶な。声掠れてるから」
 その言葉に顔を紅くした彼に笑いかける。手早く茶葉をポットに入れると、横にスコールが来た。
「どした」
「……さっき」
「うん?」
 座ってブランケットをバッツにも掛けると、肩に頭を寄せた。仲間が見れば驚くだろう。最初は驚いたが、スコールが意外と甘えたがりなのを知ってからは好きなようにさせている。
 それでもやはり少し恥ずかしいのか、火をみて話す彼の横顔にバッツはやに下がった笑みを浮かべた。
「傷のことを訊いただろう」
「ああ」
 火に照らされ美しい橙に染まる顔の、真ん中眉間を割る傷跡。明らかに後から得たものなのに、スコールという存在に馴染んでしまっている。
 意識するたびにバッツの胸に暗い炎が舌を出すのだ。
「あんたに、少しだけ似ていた」
「つけた奴が?」
「本当に、少しだけだが」
 似ていた、と獅子は目を閉じた。無言でケトルを火から下ろしポットへ注ぐ。静かだ。たっぷりのミルクと砂糖と蜂蜜を足らすとスコールに手渡した。
「美味しい?」
「……悪くはない」
「お気に召したようで何より」
 くすくすと面白そうに笑うスコールの頭を撫でてやる。傷に嫉妬はすれども、この体に傷を残したいとは全く思わない。彼に触れることを、そして蹂躙することを許されたのだ。それは即ち、スコールはバッツであると同義である。
 自らの体を傷つけるような趣味はあいにくと持ち合わせていない。
「傷なんかより、あんたはすごいものばかり俺に残していく」
「嫉妬されて嬉しい、って意味でしょうかそれは」
「どうだろうな」
 スコールを片腕で抱き締めると、目を細めた獅子がゆっくりと、ゆっくりと笑んだ。


サイファーからロ〜〜〜マンティック成分を抜いてプラス方向の電波を足すとディシディアバッツに近くなる気がした件について考えてみたけど結局よくわからなかった。今は反省している。
っていうか8と5って次元の挟間で繋がってるんですよね。先生ありがとう!

2009/04/01 : アップ