ジタンは頭を抱えた。
 また二人が喧嘩した。なんだかんだ言ってあっさりくっついたバッツとスコールだが、前途は多難だ。元の相性からしてそう良くない二人なのだから、どうやったって衝突はあるだろう。
 バッツはそもそもあまり負の方向に思考が向かわない。対したスコールは考え込みすぎてどつぼにはまっていくタイプだ。共通しているのは、お互いに言葉が足りないこと。
 考えなしで喋るバッツに考え込むスコールでは意志の疎通からして難しい。目の前で険悪な雰囲気を漂わせている二人を眺めつつ、やるせない溜息を吐いた。お悩み相談員じゃねえんだけどな、と思いつつ、生来のお節介焼きが看過することを赦さない。
 今回はなんだか様子が違うのだ。普段はスコールが怒ってバッツが訳が解っていない、という状態が多いのだがなんとバッツが烈火のごとく怒っている。全身でバッツの気配を探っているスコールは捨てられた犬のようにうなだれていた。
「で、今度は何したんだよバッツ?」
「……別に」
「あ、おい!」
「水汲んでくる!」
 小声で訊ねるが返答は冷たい。一瞬物凄い顔でスコールを睨んだバッツはさっさと席を立ってしまった。取り付く島など全く無い。残されたスコールは傷付いた顔で地面を見ている。
 これは異常事態だ。
「……スコール、どうしたんだ?」
「…………ジタン、俺はどうすればいい」
「いや、まず状況を聞かねーとオレも対応のしようがねーんだけど」
 肩を落としたスコールという珍しいものに驚きつつ隣に座った。ちらりと視線を寄越した彼は、自分の額に手を置いた。
「嫌われたくないんだ」
「そりゃ誰だってそうだろ」
「だが、どう動いても俺には嫌われる要素しかない」
 がくり、と身体から力が抜けた。憂い顔も様になる美形なのだが、言っている内容はどう贔屓目に見たとしても馬鹿としか思えない。同時にバッツが怒っていた理由もなんとなく察することが出来る。
 恋愛初心者とかそういう問題じゃない。対人関係初心者なのだ、この顔の綺麗な傭兵は。
「あのさ、もしかしてバッツにそれ言ったのか?」
「………………」
 沈黙が答だろう。
「バカ」
「……はい」
「バカだろ」
「…………はい」
 恋人に愛を疑われることほど悲しいことはない。バッツも怒るはずである。
 大人しく頷くスコールは心底凹んでいる様子だ。自分が悪いというのも十分解っているのだ。つまり、どっちもどっち。
「お前ら二人揃って人の話聞かねーもんな」
「……善処する」
「とりあえず、謝ってくれば?」
「そんな」
「姿勢だよ姿勢。言葉が巧く使えないなら、態度で示すしかないだろ」
 僅かに宙を見つめたが、さすが傭兵決断は早い。すぐに立ち上がりバッツの後を追いかけていった。
 料理の準備をしながらジタンは肩をすくめる。なんだかんだ言って仲がいい二人だし、なんだかんだ言って二人を構う自分も自分なのだ。疲れるだけで割に合わないが、犬も食わないに付き合う以上、覚悟の上である。

 その後、より酷くなった二人のラブラブっぷりに苦笑するジタンがいたとか、いないとか。


男前ジタン様は二人の導き手というか、ツッコミ。ジタンいないと関係が発展しない気がするん だ。
2009/03/20 : アップ