Alichino

 対の輪廻を続ける世界の中、立ち尽くす横顔は静謐。永い時間をかけて遠回りし、結局救えずに零れ落ちた静寂。あえかなる息を吐き出して、バッツは天を仰いだ。
 微かな心音と洩れる息が彼の命を保障している。だが、その瞳は開かれることは無い。海と空の境目に似た遠い青はバッツの認識する世界から喪われた。遠い遠いどこまでも辿りつけない旅人が焦がれる水平線の青。けぶる霧と乱反射する光の向こう、腕を開いたエウノミアが手招きする。
 立ち去るのが一番なのだろう。だが足は根が生えたように動かない。
 しゃがみこんで額の傷に触れる。表情が抜け落ちただただ瞼を閉じて眠りに着くスコールは何の反応も見せなかった。本当に、彼と自分の交差点は消えてしまったのだ。
 霞む手を翳す。身体の先から少しずつ消えていくそれは、どこか懐かしい。呼び起こされる記憶、しかしぼんやりとしていて明瞭なものは何もない。
「また、逢えればいいな」
 違わずに真っ直ぐに、彼の元へと辿り付ければいい。瞼を閉じた後に続くのは闇色の安らぎ。

Calcabrina

 永久に有り得ぬ邂逅が静かに時間を動かしていく。訳の解らない焦燥にスコールは目の前に斃れ臥す男を見る。ガンブレードからは光が滴り落ち、ゆっくり、ゆっくり男の姿は消えていく。ざわざわと騒ぐ血潮と心。金髪の少年を庇ってか、スコールの前に立ったふざけているとしか思えない男。
 叩き伏せる刹那、ふわりと、風のように微笑んだ。それからずっと胸の奥が痛い。衝動が脳を揺さぶり、意味も無く叫び出したくなる。額に手をあてると深く息を吸った。
 誰もこの場所にはいない。不確かな自分と光に融けていく男だったもの。視るのはスコールだけである。天高くの視点も地の底からの視点もここには介在せず、在るのはたった一人。死を齎すガンブレードを知りながら、癒し手のように見つめてきた強い瞳はもはやない。いや、喪われた。いや、スコールが消した。
 ずしり、と手が重みを増す。
 眦から涙がするすると頬を下り地面に落ちた。孤独だ。自分は何かを、男と一緒に自分の中の何かをも消し去ってしまった。
「なんなんだ……」
 俯いた言葉に応えはなかった。

Purgatorio I

 夢を見た。
 青い瞳が曇り澱んで白く濁っていく。
 声は出なかった。やがて腕の中の温もりは消え、果てて、荒野のオレンジ色。
 懐かしいようでいて新しさに感慨を覚え、半分すら思い出せない褪せた記憶、ノスタルジックなデジャヴ。畳み掛けるように響く低めの甘い声。あれは誰だっただろうか。
 起き上がった夜空の中に答はない。横に眠る相棒のチョコボを見て、焚き火に薪を投げ入れる。
 記憶の破片は意味を成さないままにきっと明日がまた始まる。切ない息苦しさだけがそっと心の片隅にわだかまり、いつまでも晴れない霧に変わるだろう。
 だが、と旅人は願う。自身がそれを望んだのだと解るから、いつかその切なさを探しに行こうと。地平線の向こうに黄金色の一筋がファンファーレを鳴らした。

Purgatorio II

 手に残る感触に首をひねる。
 一体なんなのだろうか。指揮官室の窓の外は穏やかな春景色だ。ここで忙殺されている自分が馬鹿らしくなるほどには長閑で優しい。
 感触に覚えはある。人を殺したことのない兵士はいない。たとえ銃であろうとも、命を奪う感触は確かにあるのだ。それとは違う重みが手を痺れさせる。ただその痺れはどこか愛おしさをも呼び起こさせるもので、手を窓の光に透かしてみる。
 流れる血の色がざわざわと胸を脅かした。掴めない記憶がもどかしい。これもまた副作用によるものなのだろうか。しかし心がそれを否定する。
 今抱えている仕事が終われば長期の休暇が取れる。そうしたら、この苦しい甘さを探しに行くのもいいかもしれない。もう一度、窓の外を見れば強い風が吹き一面の花吹雪になっていた。


コメントしがたい……(中二病的な意味で
とりあえずアレです、レポートを深く考えてみたらこうなったというか、まあ同じだけど同じじゃないとか、ずっと繰り返してるならコスモス内でも敵対したことあるんじゃねーかとか、素で敵同士の二人ってちょっと楽しいと思ったというか、そんな感じです。

2009/03/20 : アップ